救急救命士の生涯教育 P271(無料公開)

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A 救急救命士の生涯教育の目的

・救急救命士を含めた救急隊員にとって,自身の資質向上のための自己研鑽は国民の生命や身体を守るため当然の責務

救急救命士生涯教育
2年128時間以上と推奨されている

救急業務に携わる職員の生涯教育の指針


出典:へるす出版 改訂第10版救急救命士標準テキスト

B 救急救命士の自己研鑽

1 指導救命士

・救急隊員教育の企画・運営・指導の中心的役割を担う者

・救急救命士の生涯教育や事後検証を通じた教育など,メディカルコントロールによる教育指導体制と相まった効果的な教育につながることが期待されている

指導救命士の要件


出典:へるす出版 改訂第10版救急救命士標準テキスト

2 職場で行う自己研鑽

・職場で行う教育 
■on-the-job training;OJT
e-ラーニング
救急ワークステーションでの研修など

3 職場以外での自己研鑽

・職場以外で行う教育
off-the-job training
■病院実習
■メディカルコントロール協議会の事後検証会議
■学会などの参加や発表
■研究や論文作成
■外傷や意識障害
■多数傷病者対応などの標準コースへの参加など

C 病院実習

救急隊員の再教育
2年128時間以上の生涯教育のうち48時間程度を充てることとされている

1 病院実習の目的

・傷病者の予後を改善するためには,病院前医療の質の向上が不可欠

病院実習
養成課程の講義・実習や救急現場,職場で修得できない知識や技術を修得
消防機関と救急医療機関の円滑な連携と,良好な人間関係を構築するための機会でもある
・病院実習での具体的な目的
①救急患者の病院収容から病棟入室までの一連の過程を見学し,病院内における患者管理を理解する
②救急隊が初診医師に行う申し送りを見学し,傷病者情報の伝達の重要性について理解する
③病院の ICU・病棟,検査室(画像検査,検体検査,生理検査など),手術室,分娩室などの各部門を見学し,病院の機能について理解する
④チーム医療における医師や看護師などの医療関連職種の業務を理解し,医師や看護師などの医療従事者と信頼関係を醸成する
⑤医療現場における救急患者への対応を理解する 
⑥救急室に搬入された救急患者への処置・診断の全体像を理解する
⑦救急室に搬入された救急患者の緊急度・重症度および病態を理解する
⑧救急医療現場でのインフォームドコンセントの重要性を理解し,救急患者や家族などに対するいたわりの心を身につける
⑨メディカルコントロール体制下における救急救命士の役割やプロトコールを理解する
⑩救急救命処置について理解し,必要とされる手技を身につける

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2 病院実習の心構え

  ①救急患者の病院収容から病棟入室までの一連の過程を見学し,病院内における患者管理を理解する
 ②救急隊が初診医師に行う申し送りを見学し,傷病者情報の伝達の重要性について理解する
 ③病院の ICU・病棟,検査室(画像検査,検体検査,生理検査など),手術室,分娩室などの各部門を見学し,病院の機能について理解する
 ④チーム医療における医師や看護師などの医療関連職種の業務を理解し,医師や看護師などの医療従事者と信頼関係を醸成する
 ⑤医療現場における救急患者への対応を理解する
 ⑥救急室に搬入された救急患者への処置・診断の全体像を理解する
 ⑦救急室に搬入された救急患者の緊急度・重症度および病態を理解する
 ⑧救急医療現場でのインフォームドコンセントの重要性を理解し,救急患者や家族などに対するいたわりの心を身につける
 ⑨メディカルコントロール体制下における救急救命士の役割やプロトコールを理解する
 ⑩救急救命処置について理解し,必要とされる手技を身につける

3 病院実習の種類

救急救命士の病院実習
■「養成課程中資格取得後就業前実習」,「生涯教育としての実習,気管挿管や薬剤投与にかかわる実習」などがある


養成課程での病院実習

救急救命士学校養成所指定規則によって求められているもの

病院実習を受ける者
救急救命士の国家試験の受験前であり,医療資格をもたない

民間の救急救命士養成校の学生
救急現場での活動経験はない

消防機関の養成校の学生
5年ないし2000時間の救急隊員としての実務経験があり,地方公務員としての身分を有している


就業前教育における病院実習

救急救命士の資格を取得した後救急業務を開始する前に行う病院実習

・目標
■傷病者の受け入れ後の処置を含めた救急医療の現状の理解
■救命救急センターなどでの医師の指導下での救急救命処置の修練などを通して,医師,看護師などとの信頼関係を築くこと

生涯教育としての病院実習

・救急業務開始後に知識や技能を維持,向上させるために行われ,気管挿管や薬剤投与の病院実習も含まれる

4 病院実習が行われる場所

①救急処置室

・救急搬送された患者や直接救急外来に来院した患者などに対して,緊急度・重症度が判断され,緊急検査や処置・治療が行われる


②X線撮影室・CT検査室・血管造影室

・画像検査が行われる現場を見学するとともに,画像として平面上に描出された人体の一部を目にすることができる


③手術室

・手術室の構造や手術までの流れ,入室後の麻酔管理や気管挿管などの術前処置や術中の人工呼吸管理など,医療従事者の連携についても学ぶ

・人体内部の構造を観察できるよい機会

手術室
■「清潔区域」として厳重な管理がなされているため,特段の注意を払う


④病棟

・担当医師や看護師の指導を得ながら,患者の各種所見を観察する。搬送後の患者の状態を知るよい機会にもなる


カンファレンスルーム

搬入された,また入院中の患者の検査,治療内容,経過,治療方針などがチームで議論される

5 病院実習の記録

・病院実習で行った処置や観察事項,た行われた検査や処置・治療などは,実習記録簿に正確に記載

・救急救命士や地域による病院実習を含めた生涯教育の質の格差を解消するため,2年間128時間以上行う生涯教育について,これらの時間数をポイント制として換算し,実施している地域もある

生涯教育のポイント制の例(広島県)


出典:へるす出版 改訂第10版救急救命士標準テキスト

D 救急ワークステーション

救急ワークステーション
■病院実習を行いながら必要に応じて通常の救急対応として出動し,場合によっては医師や看護師が同乗してドクターカーとして運用され,救急現場で医師から直接,救急救命処置などの指示や助言を受ける
■「施設設置型」や「病院派遣型」がある

1 施設設置型救急ワークステーション

医療機関内敷地内救急隊を配置する施設を設置

・通常の救急事案に対応
■または、重症事案など、医師や看護師が同乗し、現場出動する

・消防機関と医療機関が同一の自治体に多い

2 病院派遣型救急ワークステーション

救急隊救急自動車医療機関派遣

病院実習を行いながら、通常の救急事案や重症事案に医師や看護師が同乗し現場出動する

・施設設置の経費がかからないため運用しやすい

・消防機関と医療機関が異なる自治体に多い