感染 P177(無料公開)

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A 感染と感染症

感染
■微生物が体内に侵入し,臓器や組織に定着して増殖すること

感染症
■感染によって身体に障害が発生し,発病した状態

潜伏期
感染してから発症するまでの期間
不顕性感染
潜伏期の感染は症状が明らかになっていないこと
■発症した後は顕性感染と呼ぶ
不顕性感染が長期間続く場合
健康保菌者あるいは無症候性キャリアという

B 病原体と病原性

病原体
感染症の原因となる微生物

宿主
■感染を受ける側(ヒト)

・病原性
■宿主に感染症を起こす性質をいい,病原性の程度には,感染性因子,病原性因子,毒性因子の3つが大きく関与

感染性因子
■微生物が宿主の体で安定的に増殖できる性質

病原性因子
■宿主に感染したときに発病させる性質

毒性因子
■発病したときにその病原体が宿主に与える影響の程度

・感染症が生じるかは,病原体の病原性のみで決まるわけではなく,宿主の抵抗力と病原体の病原性のバランスによって決まる
つまり,健康人には無害な微生物が,感染防御能の低下した人には,病原性を示すことがある

C 病原体となる微生物

微生物顕微
鏡で拡大しなければよくみえない微細な生物の総称

ウイルス,細菌,真菌,寄生虫など
■大きさ
細菌で1μm(1mmの1/1,000)
ウイルスはその1/10~1/100程度

■人間の大きさを地球にたとえると,細菌程度の大きさである


出典:へるす出版 改訂第10版 救急救命士標準テキスト

1 微生物の種類

①ウイルス

ウイルス
別の生物の細胞を利用し,自己の複製を行う構造体のこと

・生命の最小単位とされる細胞をもたず,自分だけでは増殖できない

・ウイルスの本体はRNA(リボ核酸)DNA(デオキシリボ核酸)
■ウイルスは細胞に感染することでRNAもしくはDNAを細胞に送り込む

■感染した細胞はウイルスのRNAもしくはDNAに従い,ウイルスの複製を行う
・ウイルスに感染した細胞は,エネルギーなどをウイルスの複製に使い,細胞本来の機能が低下する
■例えば,ヘルパーT細胞にヒト免疫不全ウイルス(HIV)が感染すると,免疫機能を担っているこの細胞の機能が低下し免疫不全状態となる。これが後天性免疫不全症候群(AIDS)

②細菌

・細菌は,自己増殖できる最小単細胞の原核生物
■形状→球菌(球状),桿菌(棒状,円筒状),らせん菌(らせん状)に分けられる


出典:へるす出版 改訂第10版 救急救命士標準テキスト


・グラム染色で紫色に染まるグラム陽性菌と,紫色に染まらず赤・桃色にみえるグラム陰性菌に大別

・増殖と酸素の有無の関係から,「好気性菌(酸素がないと増殖できない)」,「通性嫌気性菌(増殖に酸素を必要としない)」,「偏性嫌気性菌(酸素があると増殖できない)」に分ける

・細菌の毒素は,外毒素と内毒素の2つに分類


出典:へるす出版 改訂第10版 救急救命士標準テキスト

外毒素
■細菌によって作られ菌体外に分泌される
■ジフテリア菌,破傷風菌,コレラ菌,ボツリヌス菌など
■病原性大腸菌(O157)が産生するベロ毒素もその一つ
内毒素(エンドトキシン)
グラム陰性菌など

③真菌

・真菌は,真核細胞からなり,原核生物の細菌とは異なる

・真菌は,ミトコンドリアや小胞体を有する

細胞型
酵母(カンジダ)

細胞型
糸状菌(カビ)

④寄生虫など

寄生虫
他の動物の体内・体表に感染し,その動物に依存して生きる動物の総称

・単細胞の原虫類と,多細胞で発達した組織・器官を備えた蠕虫類,さらに体表に寄生する外部寄生虫(節足動物)など

2 常在微生物叢

・人体は,多数の微生物との共生の場となっている

常在微生物叢
■皮膚や粘膜の表面に定着している微生物の集団
■そのうち細菌の集団を常在細菌叢(常在菌)という

皮膚には少ないところでも1cm2当たり1,000個以上大腸には100菌種100兆個の常在菌が共生するとされる

母体内の胎児無菌状態であるが,出産で産道を通過する際に細菌との共生がはじまる

D 感染の成り立ち

感染症の発症にはさまざまな要因が関与するが,その主なものは,感染源(病原体),感染経路,宿主である

1 感染源

・病原体は,動物やヒト,その排泄物(唾液,痰,鼻汁,尿,便など),環境(土壌,水,大気など),飲料や食べ物などに存在し,感染源となる

2 感染経路

・感染経路
■病原体が宿主に伝播する経路

■病原体はそれぞれ特有の感染経路をもつ

・感染経路は通常の水平感染と,母体から子に感染する垂直感染とに大きく分けられる

■感染症の予防において感染経路の遮断が重要


①水平感染

・ヒト,環境などから,ヒトへ伝播する次のような感染

・通常3つの感染経路がある。飛沫・空気・接触感染


飛沫感染

くしゃみ,会話などで直径5μmより大きい飛沫粒子により、感染を起こすもの
感染源となるヒトと近く接することで感染が生じる
・例:インフルエンザ

空気感染(飛沫核感染)

・飛沫が気化し,直径5μm以下の飛沫核となって空中を浮遊し,それから感染するもの
・浮遊は長時間にわたり,感染源から離れた場所でも感染する危険がある
・例:麻疹,水痘,結核

接触感染

感染源であるヒトや動物,微生物との直接的な接触,医療器具,媒介動物などを介した感染源との間接接触によるもの
・例:HIV
・上記以外にも,ヒトの体への侵入経路によって,経気道感染,経口感染(食物や飲み水を介するもの),経皮感染(穿刺など),血液感染(輸血など)などに分ける場合ある

②垂直感染

垂直感染
母体が感染源となり,胎児や子に感染すること


経胎盤感染

・子宮内で胎盤を経由して感染するもの
・例:HIV,B型肝炎,風疹ウイルス,梅毒

産道感染

出産時に産道を通過する際に感染するもの
・例:HIV,ヘルペスウイルス,B群連鎖球菌

母乳感染

・出生後に母乳を介して感染するもの
・例:HIV,成人T細胞白血病

3 宿主免疫と感染

・病原体がヒトの体内に侵入しても,必ずしも感染症を発症するわけではない

・発症するか否かは,病原体の病原性と宿主の感染防御能のバランスで決まる

易感染症
感染防御能が低下し,感染症に罹患しやすい宿主の状態

日和見感染症
■健康人には無害な微生物が,易感染性の人に対して起こす感染症
■例:ニューモシスチス・イロベチーはほとんどの人が保菌する真菌であるが,AIDS者にはニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)という致死的な肺炎を引き起こす


出典:へるす出版 改訂第10版 救急救命士標準テキスト

E 病原性微生物の薬剤耐性

薬剤耐性菌
以前は抗菌薬が有効であったものの何らかの機序で抗菌薬が効かなくなった細菌

多剤耐性菌
多数の抗菌薬に耐性をもつ菌