A 疫学
・外傷での骨盤外傷(骨折)の割合
■約5〜10%
・重症多発外傷
■約20%に発生
・10〜40歳台
■交通事故
・60歳以上
■転倒・転落によるものが多い
■自動車搭乗者と歩行者がほぼ半数ずつ
■男性に多い
・骨盤骨折の20%
■不安定型
・骨盤外傷による死亡率
■10〜30%
・死亡原因のほとんどが出血
・死亡者のうち半数近くは病院到着前に死亡
B 受傷機転
・軽微な骨盤外傷では高齢者の転倒によるものが多い
・ほとんどの重症骨盤外傷
■交通事故や墜落などの減速機序で発生
■前後圧迫外力→前後方向の外力によるもの
■側方圧迫外力→側方からの外力によるもの
■垂直剪断外力→骨盤を垂直方向に剪断する外力によるもの
C 病態
・骨盤内の臓器には,骨盤壁を走行する主要な動脈から多数の血管が集まって血液を供給している
・骨盤内の後腹膜腔には発達した静脈叢がある
■これが骨盤骨折の最大の問題
・骨盤骨折による出血
■多くは静脈性の出血
■動脈性の出血ではショックの進行が速い
・ショックが速やかに進行する
■骨盤輪の構造破綻によって骨盤腔の容積が広くなっている場合
■腹膜が損傷して腹腔内へ出血した場合→出血に対するタンポナーデ効果が失われるため
D 主な外傷
1 安定型骨盤骨折
・腸骨や恥骨,坐骨の単独骨折
・一般に骨盤腔の大量出血をきたすことは少ない
・時に尿道・膀胱や外性器の損傷を合併
2 不安定型骨盤骨折
・外力が作用した方向によって骨折の形態を呈する
■前後圧迫型→部分不安定型骨盤骨折という
■側方圧迫型→部分不安定型骨盤骨折という
■垂直剪断型→骨盤輪が横(回旋)方向にも縦(垂直)方向にも不安定,最重症の損傷形態
テキストにそれぞれの骨折形態のイラストが載ってるよ
E 現場活動
1 観察と評価
①受傷機転
■圧迫や減速機序に基づく臓器損傷を予測
・歩行者対自動車の事故
■車両が衝突した位置(高さ)と傷病者の関係を把握する
・墜落の場合
■墜落の高さ,着地時の姿勢や着地面の性状などの情報は,救急外来における初療時に重要な情報
②初期評価
・血圧の低下がない場合でも,浅表性呼吸,頻脈はショックの徴候であると判断する
③観察
・骨盤部,外陰部の創傷,打撲痕,皮下血腫・腫脹,表皮剝離,あるいは下肢長の左右差がある場合、骨盤骨折を疑う
・受傷機転や視診で骨盤骨折が少しでも疑われる場合
■不安定型の骨盤骨折があるものとみなして活動
2 処置
・気道確保,酸素投与,必要に応じて補助換気を行う
・高リスク受傷機転
■脊椎運動制限を行う
・創傷部からの出血
■圧迫止血
■出血部にガーゼを当てがう
■創内にガーゼを挿入しない
・搬送時間の短縮も重要であるが,そのことにこだわるあまりに搬送先医療機関の選定を誤れば「防ぎ得た外傷死」を招くことになる
・トラウマバイパスを実践する
3 緊急度・重症度の判断
・緊急度高い
■呼吸・循環の異常
・骨盤骨折を疑えば緊急度・重症度が高くなる
・開放創を伴う場合
■重症度がさらに高くなる
医療機関での診療
・超音波検査,X線検査,CT検査,血管造影検査などの所見から臓器損傷の程度や手術の適応が判断される
・腹部臓器の損傷を合併することも多く,しばしばダメージコントロール手術の対象
・骨盤の動揺性に対しては,骨盤の創外固定が行われる