A 総論
1 定義と概念
・ショック
■全身の組織・臓器の血流量が減少して,正常な細胞活動を営めなくなった状態
・急性かつ全身性の循環不全であり「放置すれば短時間で死亡」する可能性が高い病態
2 種類と分類
ショックの種類と原因疾患
出典:へるす出版 改訂第10版救急救命士標準テキスト全て必須よ。必ず覚えるのよ
3 病態
・各種のショックに共通する病態は,低灌流による組織低酸素症
・ショックにおける組織への供給量減少が最大の問題となるのは酸素
・ショック時の血流
■脳,心臓に優先的に分配
・平均血圧が60mmHgを下回ると,脳血流自動調整によって維持できなくなると意欲の低下,認識力の低下などの意識の障害が現れる
・冠動脈に狭窄があると,血圧低下による心筋虚血を起こしやすい
・ショックが続く間
■酸素消費量,二酸化炭素産生量,エネルギー消費量,体温のすべてが減少ないし低下する
(敗血症性ショックの初期は例外である)
■アルドステロンとバソプレシン(抗利尿ホルモン)の分泌亢進
■尿量が減少
・ショックからの回復後には過剰水分として尿中に排泄される
・ショック離脱後には,腎不全をきたしていない限り尿量が大幅に増える
B 循環血液量減少性ショック
1 発生機序
・循環血液量の減少
■循環血液量が減少すると,心臓に戻る血液量(静脈還流量)も減少
■次に左心室から打ち出される血液量(1回拍出量)も減少
・平均動脈圧=1回拍出量×心拍数×全末梢血管抵抗
・身体は血圧が低下しても交感神経系が緊張して頻脈と血管収縮によって血圧を保とうとする
2 循環動態の変化
出血に伴う循環の指標の変化
出典:へるす出版 改訂第10版救急救命士標準テキストよく出題されるところは,「15~30%」のところだけど,他も覚えといてね
・妊娠中
■正常でも血圧の低下と頻脈がみられるので,出血による症状の判別が難しい
3 循環血液量減少に対する生体の反応
①自律神経系の反応
■頸動脈洞の圧受容器で感知
■大動脈の圧受容器で感知
■延髄の血管運動中枢の働きで交感神経系が緊張する
出典:ゴロー@解剖生理イラスト
■結果→細動脈収縮による全末梢血管抵抗の増加,静脈収縮による静脈還流量の補充,心拍数と心収縮力の増強
・ショックでみられる症候の多くは,交感神経系が緊張した結果である
②内分泌系の反応
・血圧の低下を感知
■腎臓から分泌されたレニンによって、レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系が賦活
・アンギオテンシン
■血管収縮作用により全末梢血管抵抗を増強させ頻脈と血圧上昇させる
・アルドステロン
■尿細管からのナトリウムの再吸収を増やして体液などの維持を図る
・バ ソプレシン(抗利尿ホルモン)
■水の再吸収を促進して循環血液量の回復に働き
■大量分泌時には血管収縮作用により血圧を上昇させる
③血液凝固系の反応
・大量出血
■血小板と血液凝固因子は消費と希釈によって減少
・大量輸液,処置時の脱衣,ショックによる代謝の低下で体温が低下する結果
■血小板機能と血液凝固能はさらに低下し,出血は止まりにくくなる
■このため大量出血時には出血傾向が出現し,止血困難による病態の悪化が問題となっている
4 大量出血後の体液変動
①分画間での体液の移動
・急激な出血後
■間質液は血管内に移動して,循環血液量の減少を補う
②輸液の効果と投与後の分布
・乳酸リンゲル液などの細胞外液補充液
■血漿と間質液にl:3の割合で分布
■乳酸リンゲル液の投与量が出血量の3~4倍必要
・ショックからの回復後,間質に浮腫として死蔵されていた水分は,リンパ管を経由して再び血管内に戻り,過剰な水分として尿中に排泄
・広範囲熱傷例のよう輸液量が非常に多い場合
■この時期に著しい循環血液量過剰による肺水腫をきたすことがある
5 原因疾患
循環血液量減少性ショックの主な原因
出典:へるす出版 改訂第10版救急救命士標準テキスト
■大部分は外傷に伴うショック
■腹腔内臓器の破裂など非外傷性出血でもしばしばみられる
・体液の喪失や体液分布異常
■数時間ないし数日の経過で進行する
■頻回の嘔吐・下痢
■水分摂取量不足が加わることが多い
■障害を受けた組織に大量の血漿成分が移行して広範囲の浮腫を形成するため,循環血液量が減少する
■すなわち身体全体の体液量減少は軽度でも,体内での体液分布が変化すると循環血液量が減少する
6 症候
7 現場活動
・心停止前の輸液
■地域のメディカルコントロールが定めるプロトコールに従って判断し,迅速に高次救急医療機関に搬送
8 輸液
・特定行為として静脈路確保のうえ輸液を行う
・輸液の実施によって医療機関搬入までの時間をいたずらに長引かせないように留意
①目的
・ショックに対する輸液の目的は血圧の正常化ではなく,医療機関到着までの間,重要臓器の最低限の灌流を保ち,ショックの増悪を防ぐこと
②適応
・15歳以上で心原性ショックを除いた,増悪するショックが適応
ショックに対する輸液の適応の1例
出典:へるす出版 改訂第10版救急救命士標準テキスト
③使用製剤
・乳酸リンゲル液,ナトリウムを多く含み,組成が細胞外液に似ている
④投与速度
⑤効果の判定
・輸液による循環血液量の回復に伴う循環動態の改善効果は,心拍数の減少,血圧の上昇
⑥合併症
・体腔内の出血コントロールは困難
・輸液を実施すると,循環が回復した分だけ出血量が増え,結果的に貧血が進むおそれがある
・輸液過剰で肺うっ血,肺水腫を起こすこともあるが,通常の搬送時間内に投与される量では生じにくい
C 心原生ショック
・心臓のポンプ作用の低下によって生じるショック
1 原因疾患と発症機序
①心収縮力の低下
■壊死に陥った心筋が収縮しなくなり,心臓全体としてのポンプ能力が低下した状態
・左室心筋量の40%以上の梗塞でショックを起こす
・心筋炎
■心筋の炎症(多くはウイルス感染)により,心筋の収縮力が低下し,障害が高度になればショックを生じる
②不整脈
■1回拍出量が増加しても心拍出量が保てない
(心拍出量=1回拍出量×心拍数)
■血管収縮による全末梢血管抵抗の増加でも血圧が保てない
(平均動脈圧=心拍出量×全末梢血管抵抗)
■拡張期が非常に短くなるために静脈還流が間に合わず,1回拍出量が激減し,心拍出量が低下する
■頻発する期外収縮やショートランでも心拍出量が低下
・心臓外傷による弁損傷などで弁の障害が急激に発生したときにはショックに陥りやすい
■急性心筋梗塞後の乳頭筋断裂による僧帽弁閉鎖不全
■大動脈解離の弁輪拡大による大動脈弁閉鎖不全
③心臓内の機械的障害(心臓弁膜症,心室中隔穿孔)
■収縮期に大きな抵抗が発生し,心室圧に比べて大動脈圧が大きく低下する
・大動脈弁の閉鎖不全
■拡張期に血液が心室に逆流する
・僧帽弁の閉鎖不全
■収縮期に血液が左心房に逆流する
・心室中隔穿孔
■急性心筋梗塞や,まれに外傷に合併する
2 循環動態
・心原性ショックでは心拍出量の減少が基本
・1回拍出量の低下が起これば,動脈圧を保つために心拍数と全末梢血管抵抗が反射的に増加する
・末梢での冷感は著明となり,それらで代償しきれないためにショックに陥る
・静脈圧は上昇することが多い
3 症候
・顔面蒼白,皮膚の冷感・湿潤など,一般的なショックの症候が観察
・脈拍は徐脈によるショックを除き多くは頻脈となる
■頸静脈の怒張など
■呼吸困難や肺野の断続性ラ音を認める
4 現場活動
・肺うっ血による低酸素血症を伴いやすく,高流量酸素投与は必須
・血圧低下がなければ,肺うっ血に対して半坐位または坐位
・血圧低下を伴う場合は慎重に仰臥位
・循環器疾患の救急診療が可能な医療機関を選定して搬送を急ぐ
D 心外閉塞・拘束性ショック
・心臓外の因子により血流が障害されてショックが生じる
・静脈還流量の減少による1回拍出量の減少がある
・循環を保とうとして心拍数と全末梢血管抵抗の増加が起こる。体循環の静脈圧上昇は特徴的である
1 原因疾患と発症機序
・気胸
胸膜腔(壁側胸膜と臓側胸膜によって囲まれるスペース)に空気が侵入すること
①緊張性気胸
・呼吸と循環の両方に障害をきたしショックを伴う
・陽圧換気によって一気に悪化
・通常の気胸がバッグ・バルブ・マスク換気や気管挿管後の陽圧換気によって,緊張性気胸に進展することもあるため注意
②心タンポナーデ
■伸展性に乏しい丈夫な袋状
■潤滑のための少量の心囊液がある
・心嚢内に血液や滲出液が貯留した結果,心臓を周囲から圧迫して循環に障害をきたした状態
・心臓の拡張が制限されて静脈還流量が減少し,次に拍出できる血液の量も減少する
・心タンポナーデをきたす心囊液の量は貯留する速さによって異なり,急激に貯留すれば少量でもショックを生じる
・外傷性心破裂,急性心筋梗塞後の心破裂,急性大動脈解離の合併症により発症
・心膜炎では液体が徐々に貯留するため,かなりの量が貯留してもショックをきたさないことがある
③肺血栓塞栓症
・1回拍出量が減り,高度の場合はショックを呈する
・右心室には過大な負担が加わる
2 症候
・原因疾患の症候
■胸内苦悶,呼吸困難など
■患側胸郭の膨張位固定,胸部皮下気腫,患側呼吸音の低下・消失
■奇脈(吸気時に収縮期血圧が10mmHg以上低下する現象)が特徴的
■ベックの三徴(動脈圧低下,外頸静脈怒張,心音減弱)
3 現場活動
・高流量酸素を投与
・緊張性気胸には高流量酸素投与を基本とし,人工呼吸は必要最小限
・胸壁の開放創があれば三辺テーピングを行う
4 輸液
・外傷性の心外閉塞・拘束性ショックで大量出血を伴うときには,頸静脈の怒張が明らかではないことがある。この場合には,輸液が有益である可能性がある
■しかし,緊張性気胸の救命には胸腔ドレナージ,心タンポナーデには心囊ドレナージが不可欠。迅速な搬送を優先
E 血液分布異常性ショック
・血管の異常な拡張によって血圧が低下
・酸素需要に応じた臓器組織への血流分布が適切に行えなくなるため,エネルギー代謝の活発な組織・臓器が低酸素状態に陥る
1 種類と発症機序
①アナフィラキシーショック
・血管透過性亢進による循環血液量減少と心機能低下も関与
・循環血液量の減少は高度なことがある
②敗血症性ショック(感染性ショック)
・重症感染症で広範な炎症反応を起こした結果生じるショック
・血管透過性の亢進による循環血液量の減少
■発症後しばらくの間は,ショックにもかかわらず心拍出量が増加
■感染症による発熱があり,また皮膚血管拡張で温かい
■ウォームショックから病態が進行すると,心拍出量の減少,全末梢血管抵抗の増加に転じる
③神経原性ショック
神経原性ショック
■交感神経系の機能に影響を与える
・通常は第5胸髄節付近よりも高位での脊髄損傷で,交感神経系が広範囲に遮断されて血管の緊張が保てなくなり,代償的な心拍数の増加と心収縮力の増強も抑制され,血圧が低下する
・損傷部位が高位であるほど血圧低下の程度は大きい
血管迷走神経反射によるショック
・内臓の副交感神経系を司る迷走神経が緊張し,徐脈と血管緊張の低下によってショックを生じる
■臥位にすると短時間で自然に改善
・輸液による細胞外液増加が有益
2 症候
■全身の皮膚に瘙痒と紅潮が出現し,蕁麻疹しばしも観察される
■痒みを訴えることもある
■眼瞼や口唇の腫脹,鼻炎症状,咽頭違和感,呼吸困難,嘔吐,腹痛などもよくみられる
■起立時のめまいや失神で血圧低下に気づくこともある
■全身の皮膚が発赤して温かい
■発熱を伴う
■呼吸障害(急性呼吸促迫症候群)や意識障害を合併していることも多い
■徐脈
■脊髄損傷では乾燥して温かい皮膚に加え,対麻痺または四肢麻痺,感覚脱失など損傷部位に応じた神経所見を呈する
・血管迷走神経反射は,
顔色不良,冷汗,気分不良などの比較的長い前駆症状を伴うことが多い
3 現場活動
・高流量酸素投与は必須
・アナフィラキシーショック,敗血症性ショックでは低酸素血症を伴うことが多い
・体位は,呼吸困難を伴っていなければショック体位を考慮してもよい
・血液分布異常性ショックは救急救命士による輸液の対象となり得る