A 総論
1 疫学と救急医療における意義
・死因別では悪性新生物に,次いで第2位
・心疾患は現在も増加傾向
・虚血性心疾患の危険因子
■高血圧,喫煙,脂質異常症,糖尿病
2 循環系疾患の主要症候
①胸痛
・緊急を要する重要な疾患
■急性冠症候群(急性心筋梗塞,不安定狭心症),急性大動脈解離,肺血栓塞栓症など
■虚血性心疾患でみられる特徴的な胸痛
■典型的には胸骨裏面の鈍痛と,特定の部位への放散痛を示す
②呼吸困難
・心不全を伴う場合や肺血栓塞栓症では呼吸困難症状を伴う
③失神
・失神は神経系でなく循環系の問題
■高度の徐脈または高度の頻脈で,脳血流量の減少による失神やめまいをきたしたもの
④動悸
・生理的(不安,興奮)にもみられる
■頻脈性,徐脈性,期外収縮など。その他,高血圧,弁膜症,心不全,虚血性心疾患
■精神的な原因でも動悸を感じる
⑤浮腫
■心臓よりも低い位置に発生
■下腿,足背に強く出現する
■指で強く押した後に凹んだままになる
3 基本的対応
①緊急度・重要度の判断
緊急度が高い
■急激な胸骨後面痛(20分以上持続する痛み,あるいは10分以内に痛みは消失するが48時間以内に繰り返している場合),移動する強い背部痛,突然の呼吸困難,起坐呼吸,意識障害,急激な四肢の阻血
■ショック,高度の血圧上昇,高度の徐脈または頻脈,収縮期血圧90mmHg以下または200mmHg以上,心拍数120/分以上または50/分未満
・器具を使った観察
■SpO2値90%以下,心電図上危険な心室性不整脈
重症度が高いもの
・慢性心不全,慢性の器質的心疾患,感染性心内膜炎
②応急処置と搬送
・体位管理も重要,半坐位の維持により心臓より下方からの静脈還流が減少し,前負荷が軽減
・肺うっ血により肺での酸素化が障害されるので,低酸素血症(SpO2値96%未満)を認める場合は酸素投与を実施
・虚血性心疾患や大動脈疾患など,動脈硬化を基盤とした疾患が多く,発症時や搬送中に血圧の高い傷病者が多い
・血圧上昇は急性心筋梗塞では心室破裂,大動脈解離や破裂大動脈瘤では病態の進展をきたす因子である
③医療機関選定
・循環系疾患には,発症から数時間以内に専門的治療を必要とするものが多い
・短縮すべきは搬送時間のみではなく,決定的治療開始までの時間である
・最初から決定的治療が可能な医療機関へ搬送することが重要