消化系疾患 P587

消化系疾患 P587

A 総論

1 救急医療における意義

急性腹症
■急激な発症で激しい腹痛を主とし,緊急に治療を要する腹部疾患群
■迅速で的確な判断と治療が可能である医療機関への搬送が必要

・消化系疾患で緊急性が高い
出血性ショック
上腸間膜動脈閉塞症,絞扼性腸閉塞,嵌頓ヘルニアなど

腸管の虚血
上腸間膜動脈閉塞症,絞扼性腸閉塞,嵌頓ヘルニアなど

消化管穿孔による腹膜炎
重症胆道感染症など

2 消化系疾患の主要症候

①腹痛

内臓痛
胆石
イレウス
体性痛
腹膜炎
腸管虚血

持続的な激しい腹痛腹膜刺激徴候を伴うものは緊急性が高い


②吐血・下血

大量吐血
食道静脈瘤破裂

・すべての消化管出血
下血として肛門から排出される

下血
■下血の場合は,出血源が肛門に近いほど鮮血色を呈し口側に近いほど赤黒色になりタール便,海苔状便
■重要な疾患→大腸癌,潰瘍性大腸炎,クローン病,大腸憩室など

③悪心・嘔吐

嘔吐
■消化管の内容物を,食道・口腔を通じて反射的に排出する現象

悪心
■嘔吐前の特有の不快感
原因
消化系疾患や婦人科疾患では腹痛
泌尿系疾患では背部痛
脳疾患では頭痛運動麻痺・感覚障害
循環系疾患では胸痛
嘔吐物
■通常は胃内容(食物残渣,胃液)
鮮血やコーヒー残渣様の吐血→消化管出血
糞便臭のする吐物腸閉塞

・頻回の嘔吐で脱水に陥っているとき
頻脈,皮膚・粘膜の乾燥,皮膚緊張の低下などが観察される


④下痢

下痢
水分の多い液状便を頻回に排泄する状態

・感染や血行障害で腸粘膜が障害されて起こるものがもっとも多い

頻回大量の下痢
■飲食が困難なこともあって脱水になっていることが多い


下痢便の色調

通常
黄褐色

血性の下痢
細菌性腸炎,虚血性大腸炎,薬剤性腸炎など

緑色の下痢
サルモネラ腸炎

白色水様下痢
コレラ
・食中毒では集団で嘔吐や下痢が発生することもあり,感染力の強いものが多く,時に隔離が必要な疾患もあるため,感染予防策が重要

⑤黄疸

黄疸
■血中に増加したビリルビンが皮膚・粘膜などの組織に沈着して黄染した状態

皮膚の痒み,尿の濃染なども認められる。白色便を伴うことも多い


溶血性黄疸

溶血(赤血球の破壊亢進により血漿中に放出された大量のヘモグロビンがビリルビンに代謝されて生じる

肝細胞性黄疸

肝障害のためにビリルビンの代謝が障害され,血中のビリルビン濃度が上昇して発症

閉塞性黄疸

胆道の結石や癌などの胆道閉塞によって,ビリルビンの排泄が障害されて発症

体質性黄疸

先天的なビリルビン代謝の障害によるもの

症状
■まずは眼球結膜が黄染
■次に皮膚が黄染

柑皮症(皮膚カロチン症:みかんの食べ過ぎ)においても皮膚の黄染が認められるが,眼球結膜や尿に色調の変化がないことで簡単に区別できる


⑥腹部膨満

・腹部膨満
■腹腔内容の体積が増加して腹部が膨らんでいる状態


種類

・腹腔内臓器の体積が増加するもの
腸閉塞による腸管の浮腫腸管内への液体ガスの貯留
■鼓腸→消化管内に大量のガスが貯留した状態

・遊離腹腔内に液体あるいはガスが貯留するもの
腹水が代表的

・急激な腹部膨満では腸管に問題があることが多い。肥満との区別が必要である