電撃傷・雷撃傷 P772

外傷救急医学

A 電撃傷

電撃傷
通電,感電,電気スパーク,アーク放電,落雷などによって,生体に電流が流れて生じる損傷


真性電撃傷:通電によるジュール熱(電熱加温)が深部組織を損傷する
電気火傷:通電によって生じるジュール熱や,電気スパーク・アーク放電・着衣着火による火災などの熱そのものによって,皮膚の広範囲な熱傷を生じる火傷

・電撃傷ではその受傷機転の特徴から,しばしば二次的損傷を合併する

・電撃傷による損傷の程度で規程されるももの

①電流の種類(直流か,交流か)

交流電流では,直流電流と比較して,筋硬直,痙攣,心室細動,呼吸筋麻痺を生じる危険が高く,同じ電圧でも組織損傷が強い

低周波交流は,高周波交流と比較して致死性不整脈を生じる危険が高く,同じ電圧でも組織損傷が強い

②電圧

電圧が高ければ,流れる電流も大きくなる

主な電圧

出典:へるす出版 改訂第10版 救急救命士標準テキスト

③電流

・流れる電流が大きければ,発生するジュール熱も大きいため組織の損傷はより強くなる

④組織の電気抵抗

・組織の電気抵抗は,骨>脂肪>皮膚>筋肉>血管>神経の順に高い

⑤通電時間

・通電時間が長いほど発生するジュール熱は大きくなる

⑥通電経路で規定される

・手から下肢など,通電経路に心臓がある場合は,致死性不整脈を生じる危険が高くなる

・ヒトでは男性よりも女性のほうが通電に対する感受性が高く、感電しやすい

雷撃傷
■落雷によって生じるもの

通電
■生体に電流が流れること

感電
■通電した結果,生体に生理反応が起こること

電気スパーク
■空気などで絶縁されている物質の間に放電が生じる際,一瞬の火花が飛ぶもの
■雷は電気スパークの一つ

アーク(弧光)放電
◾️放電の際,継続して閃光の架橋を生じるもの

フラッシュオーバー
■空気中への放電(電気スパークやアーク放電,雷)
■絶縁体の表面に沿った放電(沿面放電)

1 真性電撃傷と電気火傷

真性電撃傷

・直接接触では,電熱加熱によって皮膚および、生体内部にジュール熱が発生して,通電範囲に真性電撃傷を生じる

電流班
◾️乾燥した皮膚の電気抵抗は比較的高いため,損傷表皮は隆起して蒼白
あるいは、灰白色に変色する熱傷を生じる


電流斑と電撃潰瘍

電撃潰瘍
■電圧が高く,発生するジュール熱が大きい場合は,熱傷が炭化して潰瘍となる

・皮膚が濡れている場合や傷がある場合
■皮膚の電気抵抗が1/10以下となるため,電流斑や電撃潰瘍を認めないこともある

・関節は断面積が小さく電流密度が高くなるため,骨,腱など電気抵抗が高い組織のほか,電気抵抗が低い筋肉,神経にも強い損傷を生じる

真性電撃傷
■体表面から損傷の重症度を推測することはできない


電気火傷

・電気スパーク・アーク放電・着衣着火による火災などの熱そのものによる皮膚の広範囲な熱傷

・高電圧の電線や電源に直接接触しなくても,近傍にいるだけで電気スパークやアーク放電などのフラッシュオーバーによって通電する場合がある
・アーク放電による電撃傷
■皮膚が乾燥・硬化して暗黒色の鉱質様となる鉱性変化や表皮剝離を認める
■電紋(雷紋)と呼ばれるシダの葉状の、いち度熱傷を認める場合がある
■傷病者の着衣に着火した場合は,広範囲の電気火傷(熱傷)を生じる
■跳ね飛ばされて,転倒・墜落による二次的損傷(外傷)を伴う場合もある
■通電時間が短く,生体を通過する電流はごくわずかであることが多いため,損傷は皮膚にとどまり深部組織および臓器の損傷はほとんどない

2 交流と直流

交流による電撃傷

・家庭用電源や変圧器,高圧電線や電車架線,電気設備などへの接触・接近で生じる

・生体からの流出部(接地部)
◾️はっきりしないことが多い

・手で電線をつかんだ場合などは不随意な筋収縮持続によって流入部(接触部)に固着されて,通電が長引くことがある

・筋収縮によって四肢が屈曲する場合や,発汗によって屈側皮膚の組織抵抗が低くなっている場合:手掌や腋窩,鼠径部,膝窩部など,普通の熱傷では生じにくい四肢屈側の熱傷を生じる

直流電流による電撃傷

・落雷,地下鉄架線への接触・接近,カーバッテリーへの接触などで生じる

・生体への流入部と流出部が比較的明確

・流入部と比較して流出部の組織損傷が強いことが多い

・直流による通電では一瞬の筋攣縮を生じるため,電源から跳ね飛ばされて転倒・墜落する場合がある

3 病態

・電撃傷における死亡原因の第1位
◾️心室細動

・通電によって不整脈,および持続的な呼吸筋の収縮による呼吸筋麻痺も起こる

・いずれも交流による電撃傷で起こりやすい

・頭部の通電
◾️意識障害や痙攣,脳幹機能障害による呼吸停止などの中枢神経障害を生じることもある

・冠動脈が通電によって収縮して,心筋虚血を生じることがある

真性電撃傷
■電流斑および電撃潰瘍を生じる
■離れた場所に複数の電流斑や電撃潰瘍,熱傷を生じる場合も多い
交流では,流出部の電流斑がわかりにくい場合もある
・通電経路には,広範囲にわたって皮下組織の壊死,筋肉の浮腫,血管壁損傷,循環障害などが起こる
■結果:コンパートメント(筋区画)症候群,横紋筋融解,クラッシュ(圧挫)症候群を生じる危険がある
末梢血管が損傷された場合
■出血,血栓(血管閉塞),動脈瘤などを生じる
■受傷1週間以後の二次的出血により致死的になることがある
■著しい血管収縮と血管破壊,血栓形成のため,末梢動脈の拍動を触れなくなることが多い

・その他
◾️末梢神経障害による感覚・運動異常,記銘力低下などの中枢神経障害,自律神経障害,白内障などを生じる

電撃傷を疑う身体所見
◾️心肺停止,意識障害,末梢動脈の拍動触知不能,説明のつかない感覚・運動障害(麻痺),電流斑,電撃潰瘍,四肢屈側の熱傷など

・着衣の損傷も判断の参考になる

・転倒・墜落によって二次的損傷を生じた場合は,それぞれの外傷に応じた症状が出現

電撃傷を疑う身体所見

出典:へるす出版 改訂第10版 救急救命士標準テキスト

4 観察と処置

・状況評価を行って受傷機転を把握
■その際,電源を遮断したかどうかを必ず確認

・電源が遮断されていても,電気設備や地面に残った電界によって左右の足の間に電圧差を生じ,接地電流が流れて電撃傷を起こすこともある

接地電流

・不用意な初期活動は、救助者の二次的な電撃傷を招く

・先着隊の救急隊員はまず自身(救助者)の安全確保を優先する

・頭部の通電によって顔面や口腔内の熱傷を生じている場合
◾️咽頭・喉頭浮腫による気道閉塞の危険がある

・呼吸が停止しており,頸動脈の拍動を触知しない場合
◾️心肺蘇生を開始

・二次的外傷を生じている場合や脊髄損傷を疑う場合
◾️全身固定を含む外傷処置を行う

・全身観察において体表面に電撃傷や熱傷などの創傷を認める場合
◾️熱傷に準じた処置を行う

・真性電撃傷で生じた深部組織および臓器の損傷を判断するのは難しい

・心電図をモニターして致死性不整脈の出現の早期発見に努める

・適応があれば医師の指示の下に心肺停止前の輸液を行う

・医療機関における検査
血色素尿症(ヘモグロビン尿),ミオグロビン尿,血清クレアチンキナーゼ値高値(骨格筋壊死による),不整脈,非特異的ST-T変化,QT延長などがみられることがある
■治療:大量輸液および利尿薬投与,減張切開,デブリドマン,壊死組織の切除などが行われる

B 雷撃傷

直雷撃
■人体に直接落雷すること
■心肺停止の危険が高い

側撃雷:落雷を受けた物体やヒトの近くにいて,空気を介して通電すること

・直撃雷や側撃雷を受けない場合でも,落雷によって生じる地面の強い電界によって,接地電流が流れて電撃傷を生じることがある四足歩行の家畜が落雷で死亡しやすい理由の一つである

雷撃
■雷雲:マイナスに帯電したステップリーダと呼ばれる放電が発生
■地面:プラスに帯電したストリーマ
ステップリーダストリーマ 
■雷雲直下ではこのストリーマによる通電と電撃傷を生じる可能性がある
■このため,落雷では同時に複数の雷撃傷傷病者が発生する場合が多い

・死亡者数は年によってばらつきがあるものの,毎年発生している

落雷への対応
■山や河原などの開けた場所での落雷を避けるためには:高所を避けて低い場所に避難する
■できるだけ姿勢を低くする
■地面に横になると接地電流が流れるおそれがあるので,足をそろえてしゃがむほうがよい
■ゴム靴やゴムのレインコートを着用していても,莫大な電圧をもつ落雷を防ぐことはできない
■身につけた金属類は,落雷を誘導するわけではないので外す必要はない
■可能であれば,車内か鉄筋コンクリートの建物に避難する
■4m以上の立木がある場合は近くに避難してもよいが,側撃雷を避けるために木の高さの半分程度の距離をおく

1 病態

・電流そのものによって心停止,呼吸停止,意識障害などを生じる

・雷撃傷麻痺(対麻痺や四肢麻痺):中枢神経に物理的な損傷がない場合でも,機能的な障害によって一過性神経麻痺を生じることがある

沿面放電
■皮膚の表面に沿った放電
■雷紋(電紋)と呼ばれるシダの葉状のⅠ度熱傷を認めることもある

・著しい血管収縮のため,四肢は蒼白・まだら紋様となって冷感が強く,末梢動脈の拍動を触れなくなる

・骨格筋の急激な収縮によって転倒・墜落したり,落雷の衝撃波によって吹き飛ばされたりすると:頭蓋骨・頭蓋底,頸椎,四肢の骨折および外傷,鼓膜破裂などの二次損傷を生じることがある

・心停止の心電図
心静止が多い
■心停止を生じない場合でも,多彩な不整脈や非特異的ST-T変化
■QT 延長を認める

・胸部では肺挫傷および肺出血を生じることもある

・腹部臓器の重篤な損傷を生じることは少ない

2 観察と処置

・状況評価を行って受傷機転を把握

・不用意な初期活動は救助者の二次雷撃傷を招くため,先着隊の救急隊員はまず自身(救助者)の安全確保を優先する

・傷病者が複数の場合はトリアージを行うが,雷撃傷では,心肺停止でなければとりあえずは生命の危険はほとんどない

一般的な災害時のトリアージとは異なり心肺停止傷病者の発見と処置を優先する

・雷撃傷では瞳孔機能が障害されることが多いため,瞳孔径や対光反射は脳障害の重症度を評価する参考にはならない

・雷撃は心臓に対していわば過大な電気ショックとして作用するため,心静止でも一定時間が経過すれば自己心拍を再開することが多い
■しかし,中枢神経障害による呼吸停止が遷延すると,低酸素血症から心室細動を生じて再び心停止に至る

低酸素血症が増悪する前に人工呼吸を行えば,心停止を防止できる可能性がある

・二次的外傷を生じている場合や脊髄損傷を疑う場合
◾️全身固定を含む外傷処置を行う

・体表面に電撃傷や熱傷などの創傷を認める場合
◾️熱傷に準じた処置を行う

・雷撃傷では深部組織および臓器の損傷をきたすことは少ないが,評価するのは難しい

・集中治療管理が可能な医療機関への搬送を考慮する

・心電図をモニターして致死性不整脈の出現に注意

・適応があれば医師の指示の下に心肺停止前の輸液を行う

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