A 疫学と受傷機転
・熱傷
■熱湯や火炎などの熱によって生じる皮膚および生体の変化
・小児
■高温液体による受傷が多い
■70℃以上の1秒、60℃の10秒曝露された場合、熱傷を生じる
・乳幼児や高齢者
■皮膚が薄いため,熱傷を生じるまでの時間は短くなる
■炎症は全身性となり,ショック,播種性血管内凝固症候群(DIC),多臓器不全などの重篤な全身症状を引き起こす
・気道損傷(気道熱傷)
■気道閉塞(窒息)や呼吸不全の危険がある
B 病態
1 皮膚熱傷
・皮膚
■表皮・真皮・皮下組織と付属器からなる
・熱によって皮膚蛋白が変性すると,細胞の変性・壊死を生じる
■結合組織や血管壁を構成するコラーゲンも変性するため,表皮と真皮が剝離して水疱形成
・Ⅲ度熱傷
■重症熱傷では,皮膚および皮下組織,筋組織に至る広範な変性・壊死を生じる
・広範囲熱傷
■炎症は全身性となる
・熱による直接の血管損傷,および炎症による毛細血管の透過性亢進によって,血漿成分が血管外に漏出して広範囲の浮腫が起こる
熱傷の病期には4種類
■熱傷の受傷直後から急性期にかけて生じる
■循環血液に含まれる体液が大量に血管外へ流出するため,循環血液量減少性ショックを生じる
■血管外への漏出は6~12時間で最大。この時期に適切な輸液が行われないと死亡する
■受傷5~7日後に生じる
■血管透過性亢進は治まり,循環血液量減少性ショックから回復する
■むしろ循環血液量は増大し,適切な利尿が得られない場合は心不全や呼吸不全を生じる
■数日~数カ月後
■熱傷部分に細菌・真菌感染などの創部感染を生じる
■重篤な場合
全身感染症,菌血症や敗血症,播種性血管内凝固症候群(DIC),多臓器不全を生じ,感染したⅢ度熱傷皮膚の切除や感染治療が適切に行われない場合は死亡する
■熱傷創部の表皮が完全に元どおりになる完全再生
■不完全再生の結果,瘢痕化して治癒する
■瘢痕化した場合
伸展・収縮,発汗などの皮膚機能を失う,瘢痕拘縮に対しては形成外科手術が必要となる場合がある。慢性的な疼痛や痒みに苦しむことも多い。筋力低下や,関節の可動域制限などの後遺症に対しては,継続的なリハビリテーションが行われる
■Ⅲ度熱傷
植皮手術の適応となる,植皮された表皮(発汗機能を失う,寒暖の変化に適応できない,体温調節が困難)
2 合併症
・ビル火災や閉所火災
■不完全燃焼による一酸化炭素中毒の危険
■シアン化水素ガスを発生
■急性シアン中毒の危険がある
C 注意を要する熱傷
1 気道損傷(気道熱傷)
気道損傷は火災や爆発の際に生じる熱風や高温ガス,高温水蒸気,煙,化学物質などを吸入することによって生じる
分類
■咽頭・喉頭,声門で生じる
■熱風や高温ガスによって咽頭・喉頭,声門の浮腫が生じるため,上気道閉塞(窒息)の危険が高い
■気管・気管支,肺胞が障害される
■煙や化学物質によって肺胞に炎症を生じる
・気道損傷はいずれの型も重症であり,集中治療が必要な呼吸・循環管理が必要
2 特殊部位の受傷
・頸部熱傷
■瘢痕拘縮による重大な機能障害を生じることもある
・会陰部
■感染制御が困難なことや,排尿・排便管理や機能とかかわることがある
D 評価
・火災現場などにおける不用意な初期活動は救助者の二次熱傷を招くため,先着隊の救急隊員はまず自身(救助者)の安全確保を優先
・複数の傷病者がいる場合
■応援要請が必要
1 初期評価(生理学的評価)
■生理学的異常による生命の危機が迫っているため,酸素投与を行い,意識状態の評価,気道・呼吸管理,循環管理を重点的に行う
■必要に応じて補助換気または人工呼吸
■顔面熱傷,咽頭痛,呼吸困難,ビル火災,閉所火災,意識障害,嗄声,鼻毛焼失,口腔内スス付着,一酸化炭素ヘモグロビン血症(CO-Hb>10%)など
■気道損傷の緊急度は高く,ロードアンドゴーの適応
2 全身観察(解剖学的評価)
①熱傷深度の推定
熱傷深度推定法
出典:へるす出版 改訂第10版 救急救命士標準テキスト
・熱傷深度の推定
■熱傷面積の計算および緊急度・重症度評価において重要な要素
■ただし熱傷の受傷直後に熱傷深度を正確に推定するのは必ずしも容易でない
■とくに高齢者では,表皮・真皮が薄いため熱傷深度の推定が困難になる
②熱傷面積の推定法
9の法則
・簡便で成人に適している
5の法則(ブロッカー)
・計算法が幼児,小児,成人に分かれているが,小児に適している
ルンド・ブラウダーの法則
・計算法が年齢によって細分されており,医療機関での測定で使用される場合が多い
手掌法
・傷病者の手掌を1%体表面積とする測定法
・散在する熱傷面積の計算に適している
・小児や成人における広範囲な熱傷にも適用できる簡便な測定法
③重症度分類
アルツ(Arts)の基準
細かいところ(中等症と重症の違い等)も出題されるからしっかり覚えるのじゃよ
熱傷指数
・10以上は重症と推定
熱傷予後指数
・100以上は予後不良
熱傷面積の推定法(5,9の法則など)をもとに熱傷面積を求める問題が出題されるから、この公式は必須よ
④緊急度・重症度の判断
熱傷の重症度・緊急度判断基準
出典:へるす出版 改訂第10版 救急救命士標準テキスト第1段階、第2段階,確認しといてね
E 現場活動
1 気道道理
■上気道閉塞(窒息)の危険が高い
・肺実質型
■煙や化学物質による肺炎から呼吸不全を生じる
・酸化炭素やシアン化水素ガスを吸入した場合
■全身性の急性中毒が起こる
・SpO2値を継続的に観察して,必要に応じて酸素投与を行う
・シアン中毒
■SpO2値が高くても安定しているとはいえない点に留意
2 局所処置
・熱傷面積が10%未満の場合
■10~15分程度冷却してよい
・四肢末梢では水道水を流したままの洗面器やバケツに患肢を浸す
3 保温
・熱傷の傷病者:脱衣および冷却による低体温症の危険がある
・熱傷創部は皮膚機能を失うため,創部からの水分蒸発が増加して,気化熱が奪われて体温低下を生じやすい
・とくに小児や高齢者は低体温症をきたしやすいため保温に努める
■全身性浮腫,循環血液量減少,体熱喪失,意識状態,循環動態が悪化する可能性があることに十分注意する
・搬送時は傷病者の体温に留意して毛布や保温シートなどで全身を保温し,搬送中は車内温度を上げるなど最大限配慮する
4 輸液
・中等症・重症の熱傷
■循環血液量減少性ショックの予防または治療のために大量輸液が必要となる
■細胞外液補充液の輸液
■または代用血漿剤やアルブミン製剤などのコロイド輸液が行われる
・救急現場では静脈路確保および輸液の適応となる場合があり,地域MC協議会のプロトコールに従う
・疼痛に対する逃避反射があったり全身性浮腫を生じている場合、静脈穿刺が困難な場合がある
5 医療機関選定
■救命救急センターや熱傷センター
■またはこれに準じる二次救急医療機関および地域基幹病院に搬送
・小児の熱傷
■虐待の可能性も念頭に置く