呼吸不全 P454(無料公開)

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A 総論

1 定義と概念

・呼吸不全
■安静時空気呼吸下の動脈血酸素分圧
(PaO2)が60mmHg(SpO290%に相当)以下,あるいは動脈血二酸化炭素分圧
(PaCO2)が50mmHg以上の状態

・急性呼吸不全
■急激に発症し,発症1カ月以内の状態

■肺血栓塞栓症,気胸,気管支喘息,肺炎など
・慢性呼吸不全の急性増悪
■呼吸不全が1カ月以上継続する状態

■慢性閉塞性肺疾患(COPD),肺結核後遺症,間質性肺炎,肺癌など

2 低酸素の生体への影響と代償機構

・低酸素血症
■PaO2が異常に低い状態
■PaO2が60mmHg以下
・原因
■低換気,肺障害,酸素消費量の著しい増大

・低酸素血症により組織は低酸素症に陥る

・低酸素状態では組織代謝が悪化し乳酸アシドーシスが進行

・交感神経系の緊張により脈は頻脈となり,血圧は上昇

・チアノーゼ
■皮膚・粘膜の色が青紫色になること
■手や足の指先や爪,口唇などで観察しやすい
■「デオキシヘモグロビンが5g/dL以上になると出現
■貧血ではチアノーゼは出現しづらい
■チアノーゼの種類
→中枢性チアノーゼ(中枢性チアノーゼは舌や口腔粘膜でも認められる)
→末梢性チアノーゼ

■色素性チアノーゼ
→メトヘモグロビン,スルフヘモグロビン,が増加したときに出現

3 高二酸化炭素血症の生体への影響

・PaCO2が異常に高い状態を高二酸化炭素血症という
■PaCO2値が46mmHg以上(35~45mmHgは正常)
■原因→肺胞低換気,死腔換気の増加,二酸化炭素産生の増加など

・高二酸化炭素血症自体が呼吸不全における死因となることは通常ない

・PaCO2の急速な上昇
■脳血管の拡張により頭蓋内圧を上昇させて,頭痛や意識障害をきたす

・CO2ナルコーシス
■高二酸化炭素血症により意識障害をきたした状態
■正常では主にPaCO2の増加が体液のpH低下を通じて換気量を増加させているが,慢性的な高二酸化炭素血症下では体液のpHが代償的に保たれており,PaCO2の上昇ではなく,PaO2の低下によって換気が刺激されている
■高流量酸素を投与すると,換気の刺激となる低酸素血症が消失し,自発呼吸が弱まって換気量がさらに減少しCO2ナルコーシスを招く
■高二酸化炭素血症やCO2ナルコーシスに対しては,補助換気が必要

4 呼吸筋の疲労と生体への影響

・呼吸不全
■気道抵抗の増大,分時換気量の増加,肺コンプライアンスの低下(肺が硬くなって膨らみにくくなる)などによって呼吸仕事量が増大
■呼吸不全では浅く速い呼吸を呈することが多い

5 主な原因疾患

①急性呼吸不全の原因疾患

・肺血栓塞栓症,気胸,気管支喘息発作,肺炎など


②慢性呼吸不全の原因疾患

・慢性閉塞性肺疾患(COPD),肺結核後遺症,間質性肺炎,肺癌など

呼吸不全の主な原因疾患

出典:へるす出版 改訂第10版 救急救命士標準テキスト

B 低酸素血症の発症機序

1 低換気

①呼吸中枢機能の低下


②呼吸筋力の低下

・横隔膜を支配する横隔神経
■第3~5頸髄節から出て,第4頸髄節の機能の有無が横隔膜機能の有無を決める
■第3頸髄節よりも上位の損傷で横隔膜は麻痺する

・肋間筋を支配する肋間神経
■第1~11胸髄節から出ているため,頸髄損傷では損傷部位にかかわらず肋間筋麻痺を呈する


・ギラン・バレー症候群
■運動麻痺が上行性に進展し,重症例では呼吸筋麻痺に及ぶ


・有機リン中毒
■呼吸筋麻痺に加えて中枢性低換気,分泌物による気道閉塞,舌根沈下など多くの因子が呼吸不全の形成に関与


③気道狭窄

・気管分岐部より上での完全閉塞では数分間で心停止に至る
・上気道の狭窄では吸気時
・下気道の狭窄では呼気時
・気道の狭窄がより高度となり,呼吸困難と喘鳴が増悪する

④胸壁の異常

・フレイルチェスト
■胸郭の一部が多発肋骨骨折によってほかの部分と骨性の連絡を断たれて動揺し,換気に必要な胸腔内圧の変動を打ち消す方向に動く


・Ⅲ度熱傷の組織
■硬く伸展性に乏しいため,胸郭全周性に生じると換気が障害される

2 換気血流比の異常

①換気血流比異常の概念

・換気血流比の異常は低酸素血症の主な原因の一つである
・換気血流比による低酸素血症は酸素投与に反応
・PaCO2はあまり上昇しない

②肺内シャント

・シャントとは
■肺でガス交換を受けない血流。整理的にも少量存在する


・肺内シャント
■シャントのうち肺内で生じるもの
■肺内シャント増加の原因→肺水腫,肺炎,溺水や,肺胞が虚脱する無気肺,気胸など

・肺内シャントの増加とPaO2の低下はほぼ比例
・肺内シャントの増加
■急性呼吸不全における低酸素血症の主な発症機序の一つ

・PaCO2は肺内シャントがかなり増加するまでは一定で,肺内シャントが著しく増えると上昇する
・肺コンプライアンスは低下し,呼吸仕事量が増大
・虚脱した肺胞を何らかの手段で広げる必要がある

3 拡散障害

①肺間質の浮腫または線維化

・拡散障害
■浮腫や炎症で肺間質が肥厚すると、ガス交換が障害される

・二酸化炭素が肺間質を拡散する能力は酸素の20倍もあり,肺間質の障害で問題となるのは酸素の移動である
・肺コンプライアンスが低下し,呼吸仕事量が増える

②肺胞壁の破壊

・慢性閉塞性肺疾患(COPD)では肺胞壁が破壊され,ガス交換の行われる面積が狭くなる


③肺循環時間の短縮

・肺循環は体循環の血流量にほぼ等しく,運動時には安静時の5倍ほどに増加
・運動時には心拍出量の増加が肺血流速度を上昇させ,肺毛細血管通過時間を短縮させるので十分なガス拡散が行われない場合も低酸素血症が生じる。激しい運動時にはそれが顕著に現れる

4 その他

・低酸素血症の原因

①高山や密閉空間などでみられる吸入気酸素分圧の低下

②高度の体温上昇や代謝亢進による混合静脈血(肺動脈血)酸素飽和度の低下

③先天性心疾患や肺動静脈瘻で生じる右左シャントなども低酸素血症の原因となる

C 低換気

1 低換気

・換気量低下の原因
■呼吸中枢機能の低下,呼吸筋力の低下,気道狭窄,胸壁の異常

2 死腔換気の増加

・死腔換気
■ガス交換に関与しない換気


・分類
■肺胞死腔
■解剖学的死腔


①肺胞死腔

・換気はあるが血流のない肺胞は,ガス交換に関与しないため「肺胞死腔」といわれる
・肺胞死腔が大きくなれば,ガス交換が行われないためPaCO2は上昇
・死腔換気が高度にならないかぎり,PaO2とPaCO2は変わらないことが多い
■理由は,換気量増加で代償されるからである

②解剖学的死腔

・鼻から肺胞に至るまでの気道にとどまる空気は,換気のうち肺胞に到達しない部分であり,ガス交換に関与しない
・正常では約150mLである

3 二酸化炭素産生量の増加

・体温が1℃上昇するごとに全身の代謝は約13%増加

・それに応じて酸素消費量と二酸化炭素産生量も増加

・呼吸不全に体温上昇が併発している場合,二酸化炭素産生量の増加と低換気により,高二酸化炭素血症となる危険性が高くなる

D 換気障害の種類

・肺換気機能の障害は以下の3つに分類

■いずれも低酸素血症と高二酸化炭素血症を生じる

■主に慢性呼吸不全で問題となるが,気管支喘息の発作では急性にみられる

1 閉塞性換気障害

・1秒率が70%以下の状態

・呼気流量が低下する病態で,息を吐きにくく,呼気が延長

・慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息

2 拘束性換気障害

・%肺活量が80%以下の状態をさす

・肺活量の減少をきたす病態で肺,胸郭,呼吸筋のいずれかが障害されて生じる

・肺炎,肺癌,肺線維症,肺の切除手術後胸郭変形(肺結核後遺症),神経筋疾患など

3 混合性換気障害

・閉塞性換気障害と拘束性換気障害の両方が存在する状態

・肺気腫,肺結核後遺症,胸部手術後など

閉塞性換気障害,拘束性換気障害,混合性換気障害
この3つは必ず覚えてね。それぞれの「病態や疾患」について出題されるよ